回想録15
亭主が自営を始め、家電が手軽だし、全所帯が対象に考えられるから有利だと始めたのだけど、
そのノウハウを教えてもらったのは日が経ってたわね。
息子が小学生高学年の頃、親父の名刺を持って学校のクラスの子らに配ってたのね。
その中に、日立家電販売の社長の娘さんが居たらしいの。
その子が父親に名刺を渡し、社長が営業マンに行ってこいと指示し、或る日突然やってきたのよ。
当時はね、5階建ての公団に住んでてさ、サンヨー電気が小さな看板を作ってくれて
窓のとこに貼ってたのよ。
それで直ぐに見つかったそうで、営業マンが来た時は何で知ったのか不思議だったわね。
あちらの条件は、支払いは月末に小切手でとだけです。
そして数ヶ月の後、日立家電から招待状がきてね、それがノウハウを教わるための一泊二日の
研修だったわね。
子供に留守を頼んで亭主と二人で山の中にある国民宿谷へ行ったのよ。
そこには、何処かの大型電気店に勤める人なども居て、一緒に研修を受けたのよ。
研修の後はね、近隣の電気店のお手伝いをしながら実地の勉強をするのよ。
その日の夜、では何処に店を出すか、出すとすれば幾らぐらい必要かなど細かく計算して
教えてくれるんだけど、亭主は横を向いてたのよ。
研修が済んでの帰り道で横を向いてた理由を聞いたらね、僕には店は出せないと言うのね。
その訳は、一旦開けると好きな日に休めないのだって。
休みたいのって聞いたらさ、お前と旅をしたいのに店を開けたら、いつでも営業中を期待して
お客さんが来てくださるからだってさ。
何を目指しているのだと聞いたらね、生涯を妻と二人で歩いてきて仕事や店に邪魔をされるのは許せないんだって、休んでも収入がある事を模索しているんだとも言ってたわ。
家電業を捨てて、工事を請け出した頃だったわ。
一軒の工務店と付き合いが出来て、喫茶店の改装の仕事を受けてさ、見積書を出したら承諾されたので図面を引いて、材料を揃えて現場へ一緒に行ったのね。
途中で休憩して注射をしたけど、亭主は続けたの。
約束の工期に間に合わせるために、そして仕事が完成して集金に行ったんだって。
そしたら、見積書の金額は払えないと言ったんだって、何故かと聞いたらさ相手に値切られたのだそうですって。
それはそちらの話しで、こちらには関係が無いと突っぱねたんだけど、無い袖は振れないと言ったそうなの。
それで、70万から20万も引かれた金額の小切手を貰ったのですって。
その小切手を手にした途端、亭主は社長の机をひっくり返したんだって。
そして後日、小さなダンプ・カーに砂利を積んで行って事務所の前にぶちまけたそうよ。
そして社長に会って、この野郎とか言ったらしいのね、そして残金を貰ったと言ってたわね。
うちの亭主は若かったし、道理の通らない事には俄然向って行くところがあって
ヒヤヒヤさせられる事も一度や二度ではないわね。
それだけ真剣だったって事なのかもね。
会社勤めの頃にも、喘息の発作が続いてて今年一杯は休むと社長と専務に言ったらね、
何かあったら連絡するから養生しろと言われたの。
息子や娘に近所の子供達を連れて里山を探検したりして遊んでたのもその頃だわね。
或る日、専務が迎えに来てね、お得意さんが倒産したから事務所へ机などを取りに行くから同席
して欲しいって。
そしたら上がれと言って珈琲なんか出させてさ、のんびりしてるのよ。
専務は急がないと誰かが持って行くからと急かせるんだけど、慌てるな、俺に任せろって
大見得切ってさ、帰りは遅いから寝てるように私に言って出掛けて行ったの。
翌日の昼過ぎに専務が送ってきてさ、ニコニコして、ゆっくり休んでくれやと帰って行ったの。
亭主に聞いたらさ、事務所じゃなく、社長の自宅を知っていたから西宮の家へ行ったんだって。
そしたら3人程先客が居たらしいのね、そして応接で専務と座っていたら、奥様がお茶を出して
くださって、亭主はその時に大粒のダイヤの指輪を目ざとく見付けて、台所へ行く奥様を追いかけたんだって、そして清算が済むまで預からせて欲しい、そして一筆を書いてくれたら帰るからと
言ったんだって。
暫くして奥様が電話機を持って座っている亭主に、どうぞこちらへ来てくださいなと言って
亭主を別の部屋に導いたのですって。
その電話の相手は社長の実兄だったんだって、そして、ダイヤの指輪は返してやって欲しい。
その替わり、僕の小切手で全額を支払うから家に来てくれと言ったそうなの。
あっけに取られている専務に運転させて、教えられた実兄の家はそう遠くない所に
大きな玄関の邸宅で、実兄の息子さんらしいのが玄関に立ってて、迎え入れてくれてリビングに
通され、4mもある大理石のテーブルが据えてあったとか。
そのテーブルの長さだけ皮張りのソファがあって、中央付近に専務と二人で座ったのだって。
すると背の高い おっちゃんが来て鷹揚に挨拶し、手にはペンと小切手帳を持って
座り、ゆっくりとした口調で金額を聞いたそうで、来月に集金するはずだった金額を合わせて
250万円くらいの金額を一円も残さず言ったそうなの。
すると疑いもせず、金額を書き入れてサインをしたの。
そしてね、君たちは若いから教えてあげると言って、今回の倒産の経緯を教えてもらったんだって
それは計画倒産だとかで、弟は今、香港で遊んでるわ、こんな事でもせんとあいつは5億の金も
稼ぎだせない情けない奴なんだと言ったそうね。
その時に亭主は社長の顔を思い浮かべ、クロスの金張りのボールペンをくれたのも
香港と繋がったのだそうなの。
長期間、家で休んでてもいざと云う時は力を出せる人だと思ったわ。
専務も社長も、経理をやってた社長の奥さんも喜んでくださったみたい。
翌日は、社長が見舞いに来てくださって、昨夜の手柄を、流石は前田やなと
言ってくださったけど、一瞬、菓子折りぐらいは持ってくればと内心思ったら
封筒を亭主に渡してたのを横目で見たわよ。
封筒を貰った私が開けたらね、2万円が入ってたの、当時としてはそこそこの金額だけど
損金になったかもしれない250万円を思うと安いわね。
この当時に国内で印刷した板を輸出して台湾で缶を作り輸入する話しがあって、
今のような大半が台湾や中国製になるとは思わなかったわね。
会社勤め話しが続くけど、鬼塚って会社へ缶を納めていたんだけど、やはり倒産ではないけど支払いが悪くなって、担当してた専務が助けてくれって亭主に頼んだのよ。
亭主は、こんな事になると俄然張り切って行くのね。
当時は茶色で統一したスーツ姿でさ、やすし&きよしのやすしにそっくりだったわ。
夜に鬼塚の家に行って話しをして、今週の土曜日にもう一度来るから一割りでも用意しろと
言って帰ってきたって。
その約束の日、出掛けて行ったらさ、4人の男が居てね、櫓コタツに座ってたらしいのよ。
亭主の姿を見た一人が立上がって席を譲り、反対側の人の後ろに座ったって。
話しを進めて行く内に、一人の男が鬼塚から借金をしていて、その男から取るって事で
落ち着いたらしいのよね。
左の男がバスケットのハンケチを開くと拳銃と刀が入ってたんだって。
話しに依ってはブスっとと言われたので怒鳴りつけたそうよ。
人の借金の話しでバラして刑務所に入るだけの価値があるのか?って。
相手は手を着いて謝ったのだそうね。
鬼塚が亭主の小指が欠けてたからヤクザと思い込んで、知り合いのヤクザに
声を掛けたら来たんだそうで、亭主の一喝で謝らせた迫力は今は消えて
少しは好々爺に近くなったかな?
続く
そのノウハウを教えてもらったのは日が経ってたわね。
息子が小学生高学年の頃、親父の名刺を持って学校のクラスの子らに配ってたのね。
その中に、日立家電販売の社長の娘さんが居たらしいの。
その子が父親に名刺を渡し、社長が営業マンに行ってこいと指示し、或る日突然やってきたのよ。
当時はね、5階建ての公団に住んでてさ、サンヨー電気が小さな看板を作ってくれて
窓のとこに貼ってたのよ。
それで直ぐに見つかったそうで、営業マンが来た時は何で知ったのか不思議だったわね。
あちらの条件は、支払いは月末に小切手でとだけです。
そして数ヶ月の後、日立家電から招待状がきてね、それがノウハウを教わるための一泊二日の
研修だったわね。
子供に留守を頼んで亭主と二人で山の中にある国民宿谷へ行ったのよ。
そこには、何処かの大型電気店に勤める人なども居て、一緒に研修を受けたのよ。
研修の後はね、近隣の電気店のお手伝いをしながら実地の勉強をするのよ。
その日の夜、では何処に店を出すか、出すとすれば幾らぐらい必要かなど細かく計算して
教えてくれるんだけど、亭主は横を向いてたのよ。
研修が済んでの帰り道で横を向いてた理由を聞いたらね、僕には店は出せないと言うのね。
その訳は、一旦開けると好きな日に休めないのだって。
休みたいのって聞いたらさ、お前と旅をしたいのに店を開けたら、いつでも営業中を期待して
お客さんが来てくださるからだってさ。
何を目指しているのだと聞いたらね、生涯を妻と二人で歩いてきて仕事や店に邪魔をされるのは許せないんだって、休んでも収入がある事を模索しているんだとも言ってたわ。
家電業を捨てて、工事を請け出した頃だったわ。
一軒の工務店と付き合いが出来て、喫茶店の改装の仕事を受けてさ、見積書を出したら承諾されたので図面を引いて、材料を揃えて現場へ一緒に行ったのね。
途中で休憩して注射をしたけど、亭主は続けたの。
約束の工期に間に合わせるために、そして仕事が完成して集金に行ったんだって。
そしたら、見積書の金額は払えないと言ったんだって、何故かと聞いたらさ相手に値切られたのだそうですって。
それはそちらの話しで、こちらには関係が無いと突っぱねたんだけど、無い袖は振れないと言ったそうなの。
それで、70万から20万も引かれた金額の小切手を貰ったのですって。
その小切手を手にした途端、亭主は社長の机をひっくり返したんだって。
そして後日、小さなダンプ・カーに砂利を積んで行って事務所の前にぶちまけたそうよ。
そして社長に会って、この野郎とか言ったらしいのね、そして残金を貰ったと言ってたわね。
うちの亭主は若かったし、道理の通らない事には俄然向って行くところがあって
ヒヤヒヤさせられる事も一度や二度ではないわね。
それだけ真剣だったって事なのかもね。
会社勤めの頃にも、喘息の発作が続いてて今年一杯は休むと社長と専務に言ったらね、
何かあったら連絡するから養生しろと言われたの。
息子や娘に近所の子供達を連れて里山を探検したりして遊んでたのもその頃だわね。
或る日、専務が迎えに来てね、お得意さんが倒産したから事務所へ机などを取りに行くから同席
して欲しいって。
そしたら上がれと言って珈琲なんか出させてさ、のんびりしてるのよ。
専務は急がないと誰かが持って行くからと急かせるんだけど、慌てるな、俺に任せろって
大見得切ってさ、帰りは遅いから寝てるように私に言って出掛けて行ったの。
翌日の昼過ぎに専務が送ってきてさ、ニコニコして、ゆっくり休んでくれやと帰って行ったの。
亭主に聞いたらさ、事務所じゃなく、社長の自宅を知っていたから西宮の家へ行ったんだって。
そしたら3人程先客が居たらしいのね、そして応接で専務と座っていたら、奥様がお茶を出して
くださって、亭主はその時に大粒のダイヤの指輪を目ざとく見付けて、台所へ行く奥様を追いかけたんだって、そして清算が済むまで預からせて欲しい、そして一筆を書いてくれたら帰るからと
言ったんだって。
暫くして奥様が電話機を持って座っている亭主に、どうぞこちらへ来てくださいなと言って
亭主を別の部屋に導いたのですって。
その電話の相手は社長の実兄だったんだって、そして、ダイヤの指輪は返してやって欲しい。
その替わり、僕の小切手で全額を支払うから家に来てくれと言ったそうなの。
あっけに取られている専務に運転させて、教えられた実兄の家はそう遠くない所に
大きな玄関の邸宅で、実兄の息子さんらしいのが玄関に立ってて、迎え入れてくれてリビングに
通され、4mもある大理石のテーブルが据えてあったとか。
そのテーブルの長さだけ皮張りのソファがあって、中央付近に専務と二人で座ったのだって。
すると背の高い おっちゃんが来て鷹揚に挨拶し、手にはペンと小切手帳を持って
座り、ゆっくりとした口調で金額を聞いたそうで、来月に集金するはずだった金額を合わせて
250万円くらいの金額を一円も残さず言ったそうなの。
すると疑いもせず、金額を書き入れてサインをしたの。
そしてね、君たちは若いから教えてあげると言って、今回の倒産の経緯を教えてもらったんだって
それは計画倒産だとかで、弟は今、香港で遊んでるわ、こんな事でもせんとあいつは5億の金も
稼ぎだせない情けない奴なんだと言ったそうね。
その時に亭主は社長の顔を思い浮かべ、クロスの金張りのボールペンをくれたのも
香港と繋がったのだそうなの。
長期間、家で休んでてもいざと云う時は力を出せる人だと思ったわ。
専務も社長も、経理をやってた社長の奥さんも喜んでくださったみたい。
翌日は、社長が見舞いに来てくださって、昨夜の手柄を、流石は前田やなと
言ってくださったけど、一瞬、菓子折りぐらいは持ってくればと内心思ったら
封筒を亭主に渡してたのを横目で見たわよ。
封筒を貰った私が開けたらね、2万円が入ってたの、当時としてはそこそこの金額だけど
損金になったかもしれない250万円を思うと安いわね。
この当時に国内で印刷した板を輸出して台湾で缶を作り輸入する話しがあって、
今のような大半が台湾や中国製になるとは思わなかったわね。
会社勤め話しが続くけど、鬼塚って会社へ缶を納めていたんだけど、やはり倒産ではないけど支払いが悪くなって、担当してた専務が助けてくれって亭主に頼んだのよ。
亭主は、こんな事になると俄然張り切って行くのね。
当時は茶色で統一したスーツ姿でさ、やすし&きよしのやすしにそっくりだったわ。
夜に鬼塚の家に行って話しをして、今週の土曜日にもう一度来るから一割りでも用意しろと
言って帰ってきたって。
その約束の日、出掛けて行ったらさ、4人の男が居てね、櫓コタツに座ってたらしいのよ。
亭主の姿を見た一人が立上がって席を譲り、反対側の人の後ろに座ったって。
話しを進めて行く内に、一人の男が鬼塚から借金をしていて、その男から取るって事で
落ち着いたらしいのよね。
左の男がバスケットのハンケチを開くと拳銃と刀が入ってたんだって。
話しに依ってはブスっとと言われたので怒鳴りつけたそうよ。
人の借金の話しでバラして刑務所に入るだけの価値があるのか?って。
相手は手を着いて謝ったのだそうね。
鬼塚が亭主の小指が欠けてたからヤクザと思い込んで、知り合いのヤクザに
声を掛けたら来たんだそうで、亭主の一喝で謝らせた迫力は今は消えて
少しは好々爺に近くなったかな?
続く
by michiko2544
| 2009-09-03 22:55